土地家屋調査士は、実務経験や学歴、年齢など関係なく誰でも受験できる資格です。
しかし、関連性の高い資格を持っていれば土地家屋調査士の試験の一部が免除となる優遇措置があるのをご存じでしょうか。
建築士もその一つで、1級および2級建築士の有資格者は土地家屋調査士試験の午前の部の試験が免除されます。
この記事では土地家屋調査士試験の午前の部の詳細と、免除を受けるべき理由を解説いたします。
建築士の有資格者で土地家屋調査士の資格取得をお考えの方は、免除という最大のアドバンテージを活かして効率よくダブルライセンスを目指しましょう。
Contents
土地家屋調査士と建築士の違い
土地家屋調査士と建築士の違いはそれぞれの業務内容を見てみると分かりやすいでしょう。
まず、土地家屋調査士の主な業務は、不動産の表題部の登記です。登記申請をする建物がどんな形状でどのくらいの広さなのかなど調査し、現状をありのまま記録します。そのほか境界紛争などトラブルを解決に導くために、隣の土地との境界を特定する「境界確認」もおこないます。
一方、建築士の主な業務は建物の設計や工事監理です。建物の設計図を描き、その設計通りに建築が進められているか確認します。そのために、実際に建築をおこなう施工業者と連携を取り、使われている材料が規格に適合しているかなど現場に立ち会いチェックします。
このように、活躍するシーンは異なりますが、どちらも依頼者の財産を守る専門家として、独占的な業務を担う資格です。
建築士の資格があれば土地家屋調査士試験の一部が免除される
土地家屋調査士の筆記試験は、通常午前の部と午後の部と1日を通しておこなわれますが、建築士の有資格者は午前の部の試験が免除される優遇措置があります。
これは、建築士の資格が土地家屋調査士の資格取得において、技術的な知識や経験がすでにあるとみなされるためです。
ただし、建築士といっても、免除が受けられるのは「1級建築士」「2級建築士」で、「木造建築士」は対象外です。
建築士の他にも測量士・測量士補の有資格者が午前の試験の免除を受けられます。
このように土地家屋調査士の試験を受ける際、午前の部が免除となる専門的な資格を持つ人は、午後の部に集中できるという大きなアドバンテージがあります。
土地家屋調査士試験の“午前の部”とは?
午前の試験内容は以下の通りです。
試験時間 | 2時間
午前9時30分から午前11時30分まで |
試験内容 | 土地や土地及び家屋調査の調査及び測量に関する知識及び技能であって、次に掲げる事項
ア 土地家屋調査士法大3条第1項第1号から第6号までに規定する業務を おこなうのに必要な測量 イ 作図(縮図及び伸図並びにこれに伴う地図の変更に関する作業を含 む。)
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引用:法務省 令和6年度土地家屋調査士試験受験案内書
午前の部の試験では、主に測量の知識と作図力が必要です。
具体的には、土地家屋調査士の業務に必要な測量の知識と技術を問う択一式問題が10問と、正確な作図技術が記述式として出題されます。
午前免除を受ける理由
令和5年の土地家屋調査士の試験を実際に受検した人は2117名ですが、そのうち午前の部も受験している人はわずか81名でした。多くの受験者が午前の部の試験の免除を受けていることがわかります。
前述のとおり、午前の部が免除されると単純に午後の部に集中できるというメリットがあります。
しかし、なぜこれほど多くの人が免除を受けて受検しているのでしょうか。その理由をひも解いてみましょう。
試験が難しい
土地家屋調査士は、どちらかというとその業界の職に就いていた人が、独立開業などにより業務を遂行する上で資格が必要になり受検する傾向にあります。
試験の内容は、実務的なことを問う問題が多く難易度が高いです。令和5年度の土地家屋調査士試験の最終結果を見てみても志願者4,429人に対し、合格者は428人と全体の10%の狭き門です。
土地家屋調査士の業務の中でも技術面をみるのが午前の部ですが、1級建築士、2級建築士、測量士、測量士補といった専門的な資格を持っていると免除の対象となります。
前述のように午前の部の受験者が少ないのは、多くの人が上記の資格を取得した状態で土地家屋調査士の試験に挑戦しているということです。
それだけ土地家屋調査士の午前の部の試験が難しく、受検者の多くが午後の部に集中していることがうかがえます。
体力・精神面で不利になる
土地家屋調査士の試験を、午前の部から受検するのは体力面や精神面において不利になる可能性があります。というのも、試験は午前9時半にはじまり、午後3時半まで午前と午後に分け1日を通して実施されます。
そのため、午前の試験が終わっても午後の試験に備えて、体力に余力を残しておかなければなりません。
しかし、午前の部が免除されると、体力を午後の部に集中して使えます。起床時間や昼食を摂る時間も、午後の部の試験にあわせて自分で調節できるというメリットもあります。
また、多くの人が午前の部を免除となっている中で受検するのは、大変なプレッシャーにもなるでしょう。
午前の部を回避し、体力的にも精神的にも余裕を持って午後の部に臨むのが理想的です。
土地家屋調査士の将来性
土地家屋調査士は、独占業務があることや、少子高齢化によってこれからも活躍し続けられる資格の一つです。
具体的にその根拠を解説していきます。
独占業務がある
土地家屋調査士は不動産登記の「表題部」の登記という独占業務があるのが強みです。
法律のプロである司法書士や弁護士でも、おこなえるのは権利部のみで、基本的に表題部の登記申請はできません。
あらたに不動産を取得した場合や、増改築、取り壊しをしたときに登記申請が必要です。
しかし、権利部の登記申請は任意なのに対し、表題部の登記は義務づけられています。
たとえば相続で不動産を取得する際、複数の土地をまとめたり、一つの土地を分けたりしたときに表題部の登記申請が必要となります。このような、筆界紛争による筆界確認や、相続などで生じる合筆や分筆も土地家屋調査士が担う独占業務です。
また、令和6年4月より相続登記は義務化されており、少子高齢化による相続案件はこれから増えると予想されています。
このような理由から、土地家屋調査士の仕事は将来性の高い資格と言えるでしょう。
境界をめぐるトラブルに対処できる
先ほども触れましたが、隣の土地との境界をめぐるトラブル、いわゆる「境界紛争」を解決するのも土地家屋調査士の仕事です。不動産を相続する際に隣の土地との境目があいまいな場合、まず境界を特定しなければなりません。
土地家屋照査氏は地図や過去の登記データなどを徹底的に調査し、当事者、弁護士立ち合いのもと境界を特定し境界杭を打ち込みます。このような境界をめぐるトラブルに対しても地家屋調査士の存在は不可欠です。
これから相続による合筆や分筆の依頼は増えると予想されます。それにともない、土地家屋調査士の仕事も増加が見込まれています。
仕事の取り合いにならない
土地家屋調査士の登録者は、ほかの士業と比べると少なく、令和6年4月時点で15,465名です。たとえば、建築士の登録者は1級建築士だけでも381,303名と、土地家屋調査士と比較すると約20倍です。
(参照:概要 | 日調連について | 日本土地家屋調査士会連合会/令和6年度4月1日現在 建築士登録状況))
また、土地家屋調査士の登録者は年々減少傾向にあります。そもそもの人数そのものが少ないことと、少子高齢化による案件が増えることを考慮すると、土地家屋調査士同士で仕事を取り合うことは少ないでしょう。
しかし、土地家屋調査士の登録者が減少している一方、令和5年度の法人登録数は617件と令和3年度と比較すると約2倍となっています。
法人格が増えた要因には、令和2年に一人法人が認められたという背景もありますが、より大きな事務所に案件が偏るといった可能性も否定できません。
したがって、ダブルライセンスで専門性を高めるなど依頼者に選ばれるための差別化は必要となるでしょう。
【結論】建築士の資格があれば、土地家屋調査士の午前の部は免除になる!
1級建築士と2級建築士の有資格者は土地家屋調査士の筆記試験で「午前の部」が免除となるため、ダブルライセンスを目指すうえで非常に有利です。
しかし、ただ有利というだけで合格率が上がるわけではありません。また、建築士と土地家屋調査士の業務は異なるため、建築士の知識のみでは合格は難しいでしょう。
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